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今回ご紹介するのは、「素鵞熊野神社(そがくまのじんじゃ)」という神社の修繕工事。荒
野建設では、この神社の拝殿と本殿の間にある「幣殿(へいでん)」の柱や床、天井を修繕
させていただきました。
社殿建築の中に大工工事を施していくので、プレカット工法や壁紙といったものは使わず、
伝統的な大工の技術を用いて作業を進めて行きました。
普段なかなか入ることのできない、神社の幣殿や、一般家屋とは雰囲気の違う作業現場の様
子、工事が終わると床材や化粧材で見えなくなってしまう大工の技の部分などもありますの
で、この記事の中でご紹介させていただきます。
300年以上前から地域を見守る神社
素鵞熊野神社は、JR鹿島線潮来駅から車で5分ほどのところにある神社。
歴史を遡ると、現在とは別の場所で1188年から神社が始まっており、1696年に現在の場所
に移されたそうです。長らく地域を見守っているこの神社では、例祭のときには獅子舞や潮
来ばやしが奉納されます。この二つは、県指定の無形文化財。また境内にある大欅は、県の
天然記念物に指定されています。
風雨で傷んだ個所を修繕
そんな素鵞熊野神社は、長い年月の間風雨に晒されてきたこともあり、幣殿の部分を修繕す
る必要が出てきました。幣殿とは、神社の本殿と拝殿の間にあり、神様へ様々なものを捧げ
たり、祭祀をするために使われる場所です。
今回、荒野建設が担当した仕事は、柱、天井、床、床下などの、幣殿の中でも材木によって
構成されている部分の修繕。元々使われている木材が、雨水や湿気で木材が傷んでしまった
ため、新しい木材を取り替えつつも、雨や湿気に強い作りにしていく作業です。特に、床か
ら下の部分は大幅に作り直しました。
幣殿の建物としての雰囲気を壊さないようにするだけでなく、これからも建物が長く残って
いくために、技と工夫を凝らしながら作業を進めさせていただきました。
手刻みで柱を接合
幣殿の外側を囲むように立っている柱は、地面との接地面付近が貯まった雨水などで傷んで
いました。そこで、木材の痛んだ部分を切り取り、部分的に別の木材に交換。
幣殿に元々ある柱の途中に、新たに作った別の柱を繋ぐことになるわけですが、ネジやクギ
などは一切使用しません。
このとき使われるのが「手刻み(てきざみ)」と呼ばれる工法。複数の木材に、ノコギリや
ノミを使ってかぎ状の刻みを入れ、それぞれの木材がパズルのピースのようにぴったりと噛
み合うように接合させていく。そうすることで、柱の途中から別の木材を継ぎ足しても、強
度をしっかりと保つことができます。
写真を見ると分かる通り、上側が元々使われている木材で、下にある白い木材が新しく用意
したもの。今回は、檜を使用しました。カミソリの刃も通らないほどピッタリと噛み合わせ
るのも腕の見せ所。
実はこの接合個所は、最終的には化粧材などで隠れてしまう部分。しかし、手を抜かずしっ
かりと手刻みで繋ぎ合わせることで、長い年月の間強度を保ち続ける柱となります。
また、柱や壁の外側の部分は、細長くカットした御影石の板や、銅板で補強。流れてきた雨 が柱の根元に溜まらないようにする工夫です。
一つ一つ束を並べて作る床下
床から下の部分は、ほとんど全て新しく作り直しました。
床下には、まず地面にピンコロ石という土台の役割を果たす石を設置。木材が直接土の上に
当たり、湿気を吸い上げてしまわないようにするためです。
その上に、「束(つか)」という短い柱を並べ、束の上には「大引き(おおびき)」という
太い木材を地面と水平に渡します。束と大引きは、湿気に強い檜を使用。
一本一本の束の高さをそろえ、大引きがすべて同じ高さで水平になるようにしていくのも、
技術と経験が必要とされます。
大引きの上に、直角にクロスするように、床根太(ゆかねだ)を設置。そして、その根太の
上に、実際に人が歩く床を設置。今回は、この幣殿専用のサイズで、檜の床板を作りまし
た。細かい木目と板の白さが美しく、空間も明るくなります。
床板の厚さは約3cmあり、大人が踏みしめても板がしなって沈み込むことはありません。
木目で模様を付けた格天井
天井も同様に作り直しました。
これは「格天井(ごうてんじょう)」という作りで、格子状になっているのが特徴です。格
子の中に貼られているのは、杉の板。杉のはっきりとした木目を壁紙のように使うことで、
シンプルな格子模様の中にも、見た目の変化をつけることができます。
ひと工夫して既製品を利用
幣殿の中は全体的に木材で構成されている一方で、窓枠は利便性を考えて既製品を使ってい ます。ですが、サッシの色を選んだり、少し工夫をすることで、木の空間に馴染んだ窓を取 り付けることも可能です。
たとえばこちらのサッシは、素材はアルミや樹脂ですが、木の色になっているものを使用。
また、焦げ茶色のアルミサッシでも、サッシに沿うように木材をとりつけることで「木でで
きた窓枠」のような雰囲気にすることもできます。
両方とも、違和感無く木の空間に馴染んでいます。
大工の技術で、長く親しめる木の建物づくり
プレカット工法や壁紙といった現代の住宅工事に使われる建材ではなく、木と伝統的な大工
の技術を使いながら作業を進めていった、素鵞熊野神社の幣殿の修繕作業。神社は地域の中
で長く親しまれていく場所なので、木の特徴をしっかり活かし、丈夫で長持ちするように修
繕させていただきました。
今回使った技術は、もちろん一般住宅や家具作りなどにも応用可能です。長く愛着を持って
使える木の家、木の家具をお考えの方は、荒野建設までお声掛けください。